ゆらゆらりんな日々

2代目柴犬と暮らす日々

★野ばらさんの「コルセット」★

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先日、本の整理をしていたら以前読んだ嶽本野ばらさんの「エミリー」が出てきました。

私が野ばらさんの本に出会ったのは、「野ばら」という綺麗な名前に惹かれてです。
野ばらさんと言うと「下妻物語」などが有名なのでしょうか。
私はこの「エミリー」の中に収録されている「コルセット」と言う話が大好きです。

死のう・死のう・明日こそ死のう・・・ただ漠然とこの時代や世界、生きる事から開放されたいと
思ってた主人公が骨董品屋に勤める同じく”生まれてくる時代を間違えたのかも”と言う女性と
カフェでワインを飲み、「帰ったらお互いに自殺しましょうよ」と約束をします。

そして女性は黄八丈のお着物を着て本当に首をつって自殺してしまいます。
まさか本当にするとは思わなかった主人公は、同士が生活の中から欠落してしまった事に痛手を受けます。
こんな表現をして・・「長年愛用してきた杖を失った盲人のようだと・・」

そして後を追って死のうとしますが,激しい感覚的苦痛の虚無感に襲われ神経科に通います。
そこで30歳になったら死のうと決めた主人公は3年間病院に通います。
なぜなら受付には「平凡な世界に住む愛らしい女性がいて、姿を窺う事が、つかの間の幸せな気分を与えてくれるから・・・」

いよいよ30歳になり,自宅で自殺の準備もして、死に向かってのカウントダウンを始めます。

「どうせ死ぬのだから断られても」と病院の受付の女性を美術展デートに誘います。
断られると予測していた彼は申し出を受けた彼女に狼狽えてしまいます。

そこで彼女とデートをし、KEITA MARUYAMAのキャミソールを彼女に買ってあげます。
最初はぎこちない会話が続きます。
例えば、「好きな映画は?」
彼女はサウンドオブミュージック」と言います。
一方彼は、タルコフスキー、ロシアの監督です」
「アフガンハウンドを飼っています」と彼女が言えば
「どちらかと言えば犬は苦手です」と答えます。
「猫は?」
「猫もダメです」
「動物はお嫌いですか?」
「山羊は好きですよ」会話が続きます。

ゴールドベルク変奏曲」の流れる部屋で、
お互いに対岸にいる者だと思っていた彼女が、
「果てしない孤独の荒野に棲んでいる者である事を悟ります」

彼は彼女をこのように表現します。
「もしかすると君の棲む荒野は、僕や自殺した女性の棲んだ荒野よりも荒れ果てているのかもしれないと・・。僕は常に世界を嫌悪してきたけれど、彼女は世界を嫌悪するという術さえ知らず世界に対して怯え続けていたと・・・。君の笑顔、ほっと人心地がつける笑顔の裏には絶望的な諦念と不安があったと。」

その後は・・・ぜひ読んでみて下さい・・意外な展開で終わります。

私は野ばらさんの描く小説の世界観、美学、表現がとても心に染み入りました
ほかにも音楽、美術、ファッション、映画などたくさんの事が出てきます。

★人を羨ましく感じたり、心弱くなった夜にはお勧めの1冊です★